問題行動を伴う認知症対応 7 つのステップ


いわゆるピック病(前頭側頭型認知症)の父親のことで限界状況に追い込まれている娘さんからの相談を受けました。つらい話です…。

認知症は、おそらく現代人がもっとも恐れている病気でしょう。「認知症ドライバー、通学中の児童の列に突っ込む」・「認知症の老親をあやめた還暦の息子」・「踏み切り内で立ち往生の認知症老人、通勤通学の十万人を足止め」…。

こんな記事を見るたびに、私たちが長生きの代償として背負わされたものを痛感します。認知症で厄介なのは、俗に言う問題行動(医学用語では周辺症状)と、本人名義のおカネの問題です。前者を指して認知症は怖いといわれることが多いのですが、周囲に支障が及ぶ親を病院や施設に入れてしまえば、とりあえず家族には穏やかな時間が戻ってきます。

しかし、しばらくして親名義の財産に一切手をつけられないことに気づいたときには時すでに遅しです。否応なしに、家庭裁判所だの成年後見制度だの弁護士だの、それまでとは異次元の世界に引きずり込まれてしまうという意味で、私はこれを認知症第二の悲劇と呼んでいます。

認知症は最初が肝心です。同じ言動を繰り返す。表情がなくなる。身だしなみに気を遣わなくなる。時間・場所・ヒトの認識があいまいになる。70歳も過ぎてこれらの症状が出てきたとしたら、ほぼ認知症に足を踏み入れたと考えてまちがいありません。ご家族は躊躇せずに指摘してあげるべきです。

そりゃあ、周囲が認知症の兆候を指摘したとしても、本人は自分がボケているとは認めないでしょう。その気持ちは理解できますが、本当に家族のことを大切に思うのであれば、謙虚に受け入れて対策を講ずることが望ましいはずです。

ここからは、暴言・暴力、奇声、暴食、徘徊、モノ盗られ妄想、作話、不潔行為等々の問題行動を伴う認知症について、対応方法を7つのステップで紹介していきます。

結論を先に行ってしまうと、「モノ忘れ外来→認知症病棟→老健(老人保健施設)」というのが王道です。ただし、攻撃性が半端ない認知症の場合は、精神科隔離病棟への医療保護入院しかありません。そこでクスリの力(ちから)で問題行動を抑え込み、最終的な療養施設を決めることになります。もちろん、超高齢の場合などはそのまま最期まで入院生活ということになるでしょう。

これまでに 150 件超のケースを取り扱ってきましたが、費用・サービス品質・経営の安定性・虐待リスク…。総合的に考えて、認知症患者のさいごの生活場所として老健に勝るものはありません。手順としては、「モノ忘れ外来」・「医療保護入院」を経て老健に入所するのがもっとも円滑です。なので、いかに老健に落とし込むかという視点から、もっともスムーズな事の進め方を 7 ステップで解説していきます。

ステップ1.現状観察

まず、何はともあれ、中核症状および周辺症状の顕著な特徴を把握します。
【中核症状】
★記憶障害…物忘れ、直近の出来事が思い出せない、知人の名前が思い出せない等。
★見当識障害…年月日や時間、季節、場所、人物、人との関係性がわからなくなる等。
★理解・判断力の障害…普段と違う出来事に対して混乱する等の症状。
★実行機能障害…論理的に考え、計画的に実行することができなくなる。
★失語・失認・失行
◎失語…言葉が出にくく、間違いが多くなり、文字を書けなくなる。
◎失認…五感で感じていても、その意味がわからない。
◎失行…今までの生活で身につけていた動作が行えない。
【問題行動(周辺症状)】
★人格変容
★不安・抑うつ…気分が落ち込み、何事にも関心を示さなくなる。
★徘徊…無目的に絶えず歩き回る状態。
★失禁・不潔行為
★物盗られ妄想
★幻覚・幻聴
★暴力・暴言
★睡眠障害(不眠、昼夜逆転など)
★帰宅願望
★異食…食べ物ではないものを口に入れてしまう。
★セクハラ

その上で、周辺行動が見られない場合については、全国にあるコウノメソッドのパートナークリニックでのモノ忘れ外来を受診します。
コウノメソッドとは、認知症を治療する対症療法のことで、名古屋フォレストクリニック院長である河野和彦医師によって提唱された認知症の診断と治療体系です。薬に依存しすぎない、カラダにやさしい治療法として高評価です。なお、全国のコウノメソッド実践医は、以下から検索できます。
周辺行動が顕著な場合には、近隣精神科病院のモノ忘れ外来の受診してくだい。以降、後者の場合を想定して詳説します。

認知症治療法情報サイト

ステップ2.もの忘れ外来受診

近隣病院の精神科にてモノ忘れ外来を受診します。この際、クリニックや診療所ではなく、入院病棟のある病院をあらかじめ調べ、もっとも早く受診できる病院に予約を入れるようにします。「モノ忘れ外来」は予約制です。大盛況の診療科なので、ちょっと待たされる可能性はありますが、負けじと、「どうしても、一刻も早く診ていただきたい。同居家族がもう潰れてしまう。限界まで追い込まれているんです!」と訴えてみましょう。意外とすんなりと前倒ししてもらえる可能性があるものです。

ところで、本人は医者のもとへ出向くことを拒絶する場合がよくあるものです。そんなときは、例えばこんなふうに声をかけてみるといいでしょう。

「最近認知症ドライバーの事故とか多いでしょ。だから〇〇市ではさ、75 歳以上の人に認知症チェックのための受診が義務づけられたんだって。面倒だから、早いうちに済ませちゃおうよ!」
「お父さん(お母さん)にはまだまだ長生きしてもらわないとね。そのためには、状態を維持するために最低限の検査とお薬はがまんしてくれないと。お父さん(お母さん)だけの問題じゃないんだからね。わかってくれるでしょう?」
「主治医の先生が紹介したいお医者さんがいるって言ってくれてるんだ。ありがたいことだよね。ちょっと顔を出す程度だから、行ってみようよ。お医者さんも十人十色だろうからね。いろいろ会ってみるのもいいんじゃない?」
「検査だけは受けておかないとダメだよ。私たちはがんばって仕事してるし、子どもたちはがんばって勉強してるんだから。お父さん(お母さん)は健康管理にがんばってくれないとさ。そこをわかってくれたらうれしいね」

要は、ご高齢の方がもっとも敏感な「自尊心」。これを土足で踏みにじらないことです。まちがっても、強引な、お説教的な声かけをしないように気をつけてほしいところです。お父さん(お母さん)のこころに、『そうだよな。子どもや孫たちのためにも検査だけは受けておくか』という気持ちを喚起させられるかどうか。ここが、モノ忘れ外来を受診できるかどうかの分水嶺だと思ってトライしてみてください。

モノ忘れ外来の予約日時が確定したら、当該病院の医療相談室もしくは地域連携室(「入院の相談」と伝えれば然るべき部署に繋いでもらえます)に電話して、受診当日あるいは受診日前に相談に乗ってもらいたい旨を伝えます。その際には、近々受診予定で、かつ入院希望である旨をしっかりと伝えることが重要です。本人の症状に加え、家族の物理的精神的疲弊を強調することです。それによって。入院時期を少しでも前倒しすることが可能となるかもしれないからです。入院日の目途さえつけば、期限が切られていれば、どうにかあとしばらくは家族介護の痛みやつらさに耐えることもできるというものです。

受診当日は、本人について、最近「あれっ。何か変だな……」と思ったことを紙に書いて持っていくようにしましょう。時系列的に、可能な限り正確な日時を盛り込んで。あと、本人の既往歴と、現在服用している薬があれば併せて持参します。「おくすり手帳」があれば、それを持っていけば事足りるはずです。

さて、ここからが大切です。うまい具合に本人が納得されて、モノ忘れ外来のドアを叩いたとします。おそらく医師は、「長谷川式認知症チェックテスト」という、簡単なクイズ形式の判定法を使って診察するはずです。併せて、CTやMRIも撮るかもしれません。

で、結果如何に関わらず、淡々と所見を述べてくるはず。しかし、変な話ですが、それ以上でもそれ以下でもなく、「薬を出しておきますので、また一ヶ月後に来てください」となる可能性が高いです。要するに、レントゲン画像を見て、老人斑や脳の萎縮が思いのほか少なかったりすると、医師は焦って確定診断を下さないものなのです。
しかし、それでは意味がありません。そのまま、「はい、そうですか」なんて言って引き下がってはなりません。認知症の確定診断があろうとなかろうと、そんなことは二の次です。同居家族が、老親の言動ゆえに、日々困惑して苦悩していることを伝えなければなりません。認知症の初期の場合、初対面の相手やはじめての場所などでは、本能的に気丈に振る舞うということがかなりあるものです。そうなると、医師には逼迫感が伝わらないのです。だから、老親を診察室の外に連れ出してでも、医師と差しで会話しないとダメです。

で、検査結果や診察結果如何にかかわらず、医師に対しても入院希望の旨を、家族の限界状況も併せて明確に伝えること。「MSW(医療生活相談員)の方とお話しできないでしょうか?」と言えば、その場から医療相談室に電話を入れてくれるはずです。仮に電話してくれなかったとしたら、診察室を出た後、直接、医療相談室へ出向けばいいだけの話です。

いずれにせよ、医師に対して、心の底からのSOSを言葉と態度にして明確に伝えない限り、つぎのステップへは進めません。意を決して折衝に当たるようにしてください。ご家族の未来がかかっています。

ステップ3.医療相談室のMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)との面談

どうにかあなたの苦しみが伝わったとすると、医師は言うでしょう。「そういうことでしたら、一度、医療相談室に相談してみてください」と。医師は電話で段取りをすると、あなたに医療相談室の所在を教えてくれるはずです。そこであなたは、MSWなる職員と面談することになります。

そこでは、診察室で医師と向き合っていた時間と比べ、たっぷりと話を聴いてもらえるはずですから、いかに老親または配偶者の問題行動に悩まされているか、それが仕事と家庭にどのような支障をもたらしているか、実の親(または配偶者)に対してどんな感情を抱いているか等々を、ちょっと大袈裟くらいに訴えることが大切です。相手が女性であれば特に、です。

そして、さいごに、こんなふうに言ってみます。

「何とか自分のできるところまではやってみようと思ったのですが……。もう限界です。仕事も家庭も滅茶苦茶になってしまって、自分が何か良からぬことをしてしまいやしないかと……不安で不安でならないのです。実の親に対してそんな気持ちになるなんて、本当に恥ずかしくて情けないです」声を絞り出すようにして、最後は涙を流すくらいのことはしてください。

いいですか。ここはとっても重要なところです!

このMSW、「ただの相談係でしょ」なんて、軽く見てはダメ。MSWというのは、あなたの今後の浮沈を握っているといっても過言ではありません。キーパーソンです。というのも、入院病棟では、週一回、入退院判定会議というのをやっていて、「だれを退院させて、だれを入院させるのか」を関係専門職で協議して決定するための会議が行われているのです。認知症病棟は人気が高く、競争倍率が高いです。順番待ちを飛び越えて、一日でも早く入院の権利をゲットしなければならないご家族にとって、入退院判定会議の場で、あなたの親御さんを入院させるべきだとプッシュしてくれる存在…。それが他ならぬMSWなのです。

肝に銘じておくことです。本当に重要なのでしっかり理解してほしいです。毎週一回の頻度で開催される入退院判定会議に出席するのは、入院病棟の医師の他、看護師長、看護課長、管理栄養士、OT・PT・ST(いずれもリハビリ系の専門職)、ケアマネジャー、介護系のフロアリーダー。場合によっては事務長。そしてMSWです。医師をはじめとする専門職というのは、検査データ等、科学的根拠に基づいて意見を言うわけです。これに対して、唯一、あなたと接点を持ち、あなたの置かれた苦境に感情移入して、唯一、情緒的な側面か意見を言ってくれる人。それがMSWに他なりません。

だからこそ、絶対にMSWを味方にしなければならないのです。嫌われないまでも、「この人……、なんかなぁ~」などとネガティブな印象を与えてしまったら元も子もありません。医療相談室に配属されているMSWが、ご家族の穏やかな日々の生活と人生の浮沈を握っているということをしっかり覚えておいてください。

そういった意味では、初回面談のとき、スーツをビシッと着こなして仕事できそうオーラを出していたり、逆にブランド品をチャラチャラさせてたり……というのは考え物です。はじめて目の前に現れたあなたを見て、MSWにどんな第一印象を与えたいのか。そこを考えておく必要があります。

いや、もっと言えば、あなたを見てどう感じてほしいのか。MSWの胸中にどんな感情を抱かせたいのか。そこから逆算したビジュアルで面談に臨むようにしなければなりません。

認知症の家族と日々を共に過ごし、疲弊憔悴・疲労困憊しきって伏し目がち。顔はやつれて視点も定まらず、身繕いに気を遣う精神的余裕も感じられない…。そんな演出をしてでも、早期入院の切符をゲットしなければならないはずですよね、いまのアナタは!

『まあ。そうとう追いつめられている感じね。何とかしてあげなきゃね』

MSWには、そう思わせなければなりません。もちろん、あなたの置かれた状況が、本当に切羽詰まったものだとしたら、自然とそれは相手に伝わる確率が高い。でも、いざその段になって、緊張のあまり思いを十分に伝えられなかったというケースがままあることもまた事実なのです。しっかりと対処してください。

「入院待ちの患者さんも多くいるのですが……。この場でどうなるかを明確にお伝えすることはできませんが、入院に向けて検討してみましょう」

こんな趣旨のコメントを引き出せたら大成功です。あなたの思いがMSWにきちんと伝わったとしたら、事態は好転するはずです。もしも、その場で認知症病棟の空き状況を確認してくれたとしたら、これはもうしめたもの。空き状況によっては、何日か待たなければならないし、もしかしたら、一ヶ月後の外来受診まで我慢しなければならないかもしれない。でも、必ず前には進みます。その病院ではなくとも、別の病院と情報交換して、入院可能なところに繋いでくれることもあるからです。

ステップ4.認知症病棟への保護入院

これまでの経験則から、医療相談室のMSWとの折衝がうまくいけば、一週間以内に具体的な入院日程の連絡が入るはずです。そうなれば、もうあと一歩のところまで来ています。

ところで、多くの場合、認知症の本人は、はじめは入院などイヤだと駄々をこねるものです。でも、ここは心を鬼にして、とにかく前に進むこと。なんなら、入院する旨を本人に伝えないという選択肢もあると思っています。いや、そのほうが割合としては多いですね。

入院当日というのは、だいたいは外来診察から入院病棟へと引き継がれていくものです。家族が保護入院の手続き(この書面は直系のお子さんの捺印が必要)を行うのと並行して、本人は診察室に入るや薬で眠らされ、移動式寝台で病棟へ運ばれていきます。仮に本人が嫌がり抵抗したとしても、クスリの力で眠らされ、そのままキャスター付きベッドで運ばれていくことになるのです。なので、本人ではなく家族の意志で入院させるという意味で、これを「保護入院」と言っているわけです。

入院病棟では病棟担当のMSW(メディカルソーシャルワーカー)が登場してきます。そして、入院やら面会やらに係るルールの説明等がなされた後、こんな質問をしてくるかと思います。

「通常、認知症病棟への入院は、2カ月から3ヵ月となっています。退院後の具体的なことは、何か考えていらっしゃいますか?」

ここでは、こう答えるようにしてください。

「はい。やはり、自宅で家族と一緒にということは無理があると思いますので、老人ホームかグループホームを早速さがしはじめるつもりです。できればこの近くで、どこか良いところがあれば教えていただけると助かります」

つまり、「早急に終のすみかを探して、なるべく早く病院を出ていきますよ」というポーズを示すことが重要なのです。病院というのは、ある患者に長居されるほどに収益が落ちてくるようになっているので、どんどんベッドを回転させたいのが病院経営者たちの本音なわけです。

とは言っても、業務の特性上、嫌がる患者を力づくで追い出すこともできないので、規定の在院日数内できっちりと退院する方向で動いてくれそうな家族には好感を持ったとしても不思議ではありません。だから、まちがっても、「できれば可能な限り、1日でも長く入院させておいてほしい」などと言ってはダメです。口が裂けても、です。いくら本音はそうであっても、です。いくらあなたが「正直」をポリシーとして生きてきたとしても、です。

入院待ちの認知症患者はうじゃうじゃいて、病院にとって望ましい新規患者と入れ替えに退院勧告を受けるのは、やはり、扱いづらい患者や家族になると思っておいたほうがいい…。これ、真実です。複数の医者から聞いた話です。だからこそ、「もちろん3ヵ月で出ますよぉ~」オーラを漂わせること。これが大切になってくるのです。

ステップ5.入院30日経過時点の面談

概ね一か月が経過すると、本人の院内での様子をフィードバックするための面談がセットされることになります。実際は、施設探しの進捗をチェックされると思っていればまちがいありません。ここで、あなたは、「仕事の合間を縫って必死に探しているものの、なかなか条件に合うところがなくて困っています。特に、こんなに費用が嵩むものだとは思っていなかったのでビックリしています…」的なムードを醸し出すようにしましょう。これが大切です。

MSWは、「どのあたりでお探しですか?」とか、「失礼ですが、ご予算的にはどれくらいを想定していらっしゃいますか?」などと訊いてくる可能性が高い。そのときは、「なるだけ住み慣れた地域に近いところで」・「月額 10 万円を超えないのが理想」など、現実的にあり得ない話をあえてするようにします。都会になればなるほど、月額 10 万円で入れるような物件はあり得ません。公的施設である特養は、安価ではあるけれど「順番待ちは3年以上」とか喧伝されている(さがせば入れる特養はあるけれど)ので、まぁ、ふつうに考えたら出口が見つからないわけです。

そして、面談のさいごはこう結ぶようにします。「なんとか、もっと範囲を広げて、週末に田舎のほうとかも見学に行ってみるつもりです。また、適宜ご報告させていただきます」

そんなふうに、心から申し訳なさそうに言うこと。そして、いつもよくしてくれている職員の方々に対するお礼も忘れないようにしたいところです。

ステップ6.入院60日経過時点の面談

そろそろ病院側もこちらの動向が気になってくる頃です。「もうそろそろ、次の行き先、決まったの?」といった具合に。この時点では、かなり具体的な地名や物件名を出して、「だいぶ精力的に範囲を広げて本気で探しているんだなぁ~」という印象を持たせることが重要となる。でも、帯に短しタスキに長し……といった感じで、これといった決定打に行き当たっていないもどかしさ。それを前面に出すようにしましょう。そして、頃合いを見て、こう訊いてみてください。

「あのう。もちろん、継続して探して、なんとか手を打とうとは思っているのですが……。仮にこのまま、予算内で賄える物件が見つかなかったとしたら……。実際問題、どうなってしまうのでしょうか?」

ここで、気の利いた相談員なら、「行き先が確定するまでの繋ぎとして、老健という中間施設にいったん入所する」というオプションを出してくれることが予想されます。でも仮に、あなたの切羽詰まった状況が相手に伝わっていなかったとしたら、「そうですねぇ。うちも入院待機者がたくさんいるものですから…」と言ってダンマリを決め込むかもしれません。いずれにしても、あなたは凛としてこう告げるようにしたいところです。

「とにかく、できる限り早期に確定させてご連絡します。明日から、会社のほうも休みを取ってますので、もっといろいろとまわってみるつもりです。ご迷惑をおかけしますが、どうかあと少しだけ、よろしくお願い致します」

MSWに「ご家族も必死なんだな……」と思わせることが大切です。ここまでいくと、相手は次の面談を持ちかけてくるか、「いついつまでに状況を教えてもらいたい」などと言ってくるはずだから、あとはそれに従えばいいだけの話です。

ステップ7.最終面談

入院から3ヶ月程度が過ぎると、やはり病院側は方向性を決めにかかってくるのが一般的です。例外的
に、病院側からは何の圧力もないままに、6カ月近く入院できるケースも散見されますが。ここで、あなたははじめて、神妙な面持ちで老健の話を切り出すようにします。

「実は、先日、役所の介護保険課に相談に行ったのですが、そこで『老健』という話を教えていただきまし
た。最終的に、どうしても適当な物件が見つからなかったとしたら、老健で時間稼ぎをするしかない……み
たいに言われたのですが……」

こうして具体的に老健の話が出てくると、病院側の相談員もいよいよ老健についてガイドせざるを得なくなるはずです。そのなかで、「在宅復帰のリハビリ施設であって生活の場ではない」とか、「基本的に3ヵ月しか居られない」だとか言ってくる可能性が高いです。でも、そんな話はスルーして構いません。神妙に頷いたり、相槌を打ったりしていればいいだけの話です。

肝心なのは、病院側から、具体的な老健の名前を提示してもらうことです。ふつう、どこの病院でも老健とのチャネルは必ずあるものです。同系列のグループ内に老健を持っているところだって多いのです。逆に言えば、最初から戦略的にそういう病院のモノ忘れ外来を受診するという技もアリなわけ。

さぁ、勝負どころです。おもむろに訊いてみましょう。

「こちらの病院がおつきあいのある老健……というのもあるのでしょうか?」

ないはずはない。「一応……」とかなんとかもったいぶりながら、いくつか老健の名前を出してくるはずです。そうしたら、すかさず畳みかけてください。

「是非、ご紹介してもらえませんか。急に施設探しとかやることになって、いろいろわからなくて手間取ったりしましたけど、あと3ヵ月あれば何とかなると思うんです。最悪の最悪、南九州のほうとか行けば、かなり費用も抑えられそうなんで。あと少しだけ猶予期間をいただけると、本当に助かります。何とかお願いします」

あなたが深々と頭を下げるのを見て、きっとMSWは満足げに言うことでしょう。

「わっかりました。事情は理解しているつもりですので、ちょっと老健のほうに訊いてみましょう。空きがあるといいのですが……」

おめでとうございます!

心配無用。空き、あります。大丈夫です。これまでの、MSWとの関係性にもよりますが、相談員が「確認してみましょう」と言っておいて「ダメでした」となることは99%ありません。本当に空きがなかったとしたら、入院期間を延ばしてくれると思えばいいだけのことです。大船に乗ったつもりで、その後の相手からの連絡を待っていれば大丈夫です。

大事なところなので再確認しておきます。

病院(相談員)から退院時期について話があった際には、病院に頼んで、老健(老人保健施設)もしくは特養(特別養護老人ホーム)を紹介してもらうのがベストです。「老健は自宅復帰のための中間施設だから3ヶ月で退所しなければならない」というのが定説のようになっていますが、全国の老健の8割が看取りまで対応していることを記しておきます。

私は過去 10 年以上、毎年 20 人以上の相談者を、「モノ忘れ外来→精神科認知症病棟→老健」の流れでサポートをしてきました。すでに 30 数名がお亡くなりになりましたが、みな老健で最期を迎えられました。「3ヵ月経ったから出て行ってくれ」などと言われたケースも皆無ではありませんが、きちんと事情を話せば老健側でも考慮はしてくれます。まちがいありません。だれが何と言おうと、老健のミッションは「在宅復帰支援」と「看取り支援」の両輪なのです。

余談

私としては、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(通称、サ高住)はお薦めできません。特に全国展開している大手介護事業者の物件はリスクが高いと思っています。公的介護施設のほうが断然安いし、サービス品質だって上のように感じています。他には、民間では唯一、その地域で代々医療を提供している病院や診療所が経営するサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)はリスクが低いと思います。

最後に

さて、病院が老健を紹介してくれることが決まると、おそらく数日以内に相談員から連絡が入るはずです。当該老健の具体的な名前と、具体的なスケジュールを教えてくれますので、MSWには全身全霊で感謝のメッセージを伝えてあげてください。そういうもので世の中は円滑に回っていくものだと、私は思っているものですから…。

ここまできたら、もう心配は要りません。一応、老健の相談員が施設内を案内してくれたあと、事務手続きについてガイドしてくれます。そのなかで、「3ヵ月ごとに在宅復帰判定委員会というのがあって、症状に改善が見られて、ご自宅での生活も可能と判断された場合には……」などと説明があるかとは思います。しかし、あなたはただ、フンフンとうなずいているだけでOKです。なんの問題もありません。認知症は改善しないのですから。老健に入ってしまえば、もう一件落着です。

以上、7つのステップ。これで、老親の認知症に苦慮してきた家族は、(民間の有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームよりも)超安価な費用負担で、そして、全国で多くの人たちが懇願している特養なんぞよりも、もっともっと安心安全で快適な環境を確保できることになります。

家族の、問題行動を伴う認知症で大変な思いをされているみなさん。特に、レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症(ピック病)で心身ともに疲弊しているみなさん。この7ステップで、一日も早く自分の時間と人生を取り戻してください。心からお祈りしています。

そして、どうしてもうまく事が運ばない時は、どうぞためらうことなく、お気軽にご一報ください…。

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