社会福祉士が老親問題からビジネスケアラーを救う

社会福祉士が老親問題からビジネスケアラーを救う

知る人ぞ知る「相談援助の国家資格」社会福祉士が、老親問題からビジネスケアラーを救う。

そんな話を綴ります…。

2016年に掲げられた『一億総活躍社会』やら『介護離職ゼロ構想』やらのキャッチーな美辞麗句は、時の政権が一般大衆の支持率を一時的に高めるには功を奏した。つまり、すでに目的を達してしまったため、以降、今日現在に至るまで、介護離職問題は何ら解決できていない。「とりあえず、ちゃんとやってますよ」的な取組みに終始一貫していて、本気で介護離職ゼロを実現しようという姿勢が見えてこないのだ。というわけで、永田町&霞ヶ関&パソナグループに任せておいたのでは埒が明かないので、代わって解決策を提言してみたい。

全企業に義務づけられた介護休業制度

これは大いに評価できる施策でした。かつて私が企業勤めしていた頃、プライベートな理由で有給休暇を申請するのは本当に気が引けたものでした。上司からは露骨にイヤな顔をされたものです。でも、今日では介護休業制度が充実したおかげで、ビジネスケアラーと称される、老親問題を抱えてにっちもさっちもいかない人たちが、少なくとも表面的には、堂々と休みを取得することが可能になったのですからね。

同制度にはさまざまなメニューがありますが、今回、問題提起したいのは『介護休業の取得』のことです。通常賃金の67%相当をもらいながら、介護対象者ひとりにつき、最大93日間の休みを取得できるというものです。従業員の相談に乗って問題解決を支援しようとする中小企業に対しては、介護休業取得時に30万円、職場復帰時にも30万円の助成金が給付されます。これによって、以前であればネガティブな反応を示した勤務先が、「気にしなくていいから休んでいいんだよ」モードに一変したなどという話も耳にするようになりました。助成金の威力は絶大です…(笑)。

従業員ではなく、会社に給付される助成金

『介護休業推進支援事業』なる政策ですが、2016年から2025年まで10年連続で、パソナ社に3〜4億円で委託されています。。同社が何をするかというと、中小企業の人事労務部門に対して、悩める従業員の介護離職を防止するために『仕事と介護の両立支援プラン』なるものの作成を指導します。

人事労務の担当者たちはパソナグループの研修を受けたり、相談に乗ってもらったりして、「仕事については変則勤務やリモートワークや介護休業制度をうまく利用しながら、介護については地域の公的サービスや民間サービスをうまく活用しながら、こうやって仕事と介護を両立すればいいんじゃない?」といった具合に、従業員に介護休業の取得をすすめるわけです。つまり、仕事と介護の両立支援プランを作成した上で介護休業取得の申請をして、それが都道府県の労働局に受理されることで助成金をゲットできるということです。そう。介護休業期間中は賃金の33%をカットされる従業員ではなく、会社側が、です。

『介護休業』・『仕事と介護の両立』という、あまりにセンスのないネーミング

こうして介護休業を取得したビジネスパーソンの多くが、老親介護にみずから携わるようになります。厚労省に再確認しましたが、やはり同制度本来の目的は、「介護離職などということにならぬよう、短期集中で老親を介護する体制や環境を整えて職場に戻ってきなさいね」ということです。しかし、私の感覚では、8割方この真意は伝わっていません。

育児休業制度というのがありますが、これは誰しも、当然「育児するための休み」と解釈しますよねぇ。だとすれば、介護休業制度などと表現したら、「あっ。介護するための休み」なんだなって受けとる人が大多数だと思いませんか?

同様に、介護休業を取得するために作られる『仕事と介護の両立支援プラン』。これもまた、『両立』なるワードゆえに、「仕事も介護も、何とか時間を捻出して、両方とも首尾よくこなさなきゃな」という甚だしい誤解曲解を招いても仕方ないと思います。

要は、介護離職もやむなしのところまで追い込まれているかもしれないビジネスパーソンに対して、あまりにも安直な言葉選びをしていると言わざるを得ない。名付け親が誰かは知りませんが、能天気な国家公務員に対して、心の底から憤りを覚えます。

介護休業を取得した人の3人にひとりが介護離職

2022年度の実績ベースで、従業員が介護休業を取得したことで企業に支払われた助成金は約600件。金額換算すると、約1億8千万円です。また、従業員が職場復帰した際に企業に対して支払われた助成金は約400件。金額にして、約1億2千万円です。このギャップが意味することは、約200人のビジネスパーソンが、介護休業を取得したことで介護離職せざるを得ない状況に突き落とされたということです。

介護離職を防止するための政策であるはずの『介護休業制度』であり『仕事と介護の両立支援プラン』であるはずです。にもかかわらず、介護休業を取得した人の3人にひとりが介護離職をしている現実は、決して見過ごすことはできません。おかしいですよね、完全に。

私どものところへ老親問題のことで相談に来られたビジネスパーソンのなかに、過去3年以内に介護休業を取得した人が34人います。彼らの話を聴けば聴くほどに、介護休業期間中に、老親と多くの時間と空間を共有し、見守り、掃除、洗濯、買い物、通院同行、役所事務、銀行事務、施設見学に加え、食事・入浴・排泄等の介助行為にも関与さざるを得ない状況に、心身が疲弊していった様子が目に浮かんできます。

ちなみに、パソナグループの家事代行サービスかどうかは微妙ですが、7人が同様のサービスを利用していました。結果的に、会社に辞表を出した人が12名。配偶者や子どもとの関係性に支障が出てしまった人も9人います。

介護休業の真意を理解していても超えられない壁

こうした残念な結果を招いてしまったいちばん根っこにあるのが、『介護休業』および『両立』というワードです。事実、34人の相談者のうち22名はどっぷりと在宅介護に浸かっていました。16名が老親が暮らす実家に日参して。6名は、なんと自分の家庭に老親を連れてきて。経済的な事情で施設入所は非現実的だと思い込んでいた人も多いです。もちろん、自分の親をさいごまで自分でケアしたいという人もいました。

しかし、残りの12名はちがいます。老親を入院させようとか、施設に入所させようとか、明確な目的をもって介護休業を取得していました。厚労省のいう「介護の体制や環境を整える」という本来の意図を理解していた可能性を否定はできません。

そんな彼らの前に大きく立ちはだかったのが、精神救急をはじめとする入院先の確保と、予算内で賄える介護施設の確保、でした。前者については、そもそも限りある病床数と待機者に加え、医療者との折衝に心身が疲弊しまくりでした。後者は、月額10万円とか、老親の年金だけで賄える施設がほぼ存在しない事実に愕然として、いたずらに候補エリアをローカルに広げていくしかなかったとのことです。

本気で介護離職ゼロを実現しようと思うなら

何かの縁で私どものところへコンタクトしてくれた34人のビジネスケアラーたちの話を聴き、厚労省や病院関係者に問い合わせ、明確にわかったことがあります。それは、老親問題でビジネスケアラーたちをもっとも追い込むものは病院と施設の確保であり、例え93日の介護休業を取得したとしてもブレイクスルーすることは困難だということです。

そうして出口が見えないなかで、来る日も来る日も、心身の衰弱に加え意思疎通も危うくなりつつある老親と一緒に過ごし、みずから身の回りのことに対応するしかない状況。さらに言えば、介護休業法では禁じられているにもかかわらず、顧客や取引先、会社の上司・メンバーとの報連相を完全に遮断することができない状況。こうした老親介護および介護休業の現実が、介護離職ゼロを阻んでいるのです。

ただ、介護離職ゼロを実現する方法はあります。しかも単純明快です。多くのビジネスケアラーを苦しめている入院先さがしと入所施設さがし、そしてそれらと同時並行で進めないと後々大変なことになる財産承継。これらの実務代行を担ってくれる誰かと、企業が顧問契約を結べばいいだけの話です。そうすれば、介護休業など取得しなくても、土日祝日や有給休暇の範囲で老親問題を解決することが可能です。まちがいありません。

介護離職防止のカギを握る国家資格『社会福祉士』

ビジネスケアラーに代わって、医療や介護や財産まわりのことまで対応してくれる誰かなんているのかよぉ~という声が聞こえてきそうですが、大丈夫です。認知度は低いものの、相談援助の国家資格・社会福祉士であれば、精神救急も含めた病床の確保、月額10万円で入れる介護施設の確保、老親の判断能力が完全に損なわれてしまうまでに行うべき財産承継の段取り…。これらは当たり前のように日常的にこなしています。

社会福祉士という国家資格は、本来のミッションを果たすために、地域の医師や弁護士や税理士らとネットワークがあるので、老い先のあらゆる問題に対応できるわけです。ビジネスケアラーをはじめ、誰にとっても真っ先に相談すべき相手としては実に重宝されるべき存在なのです。

問題があるとすれば、社会福祉士なる専門職がどこで何をやっているのかが見えづらい点です。27万人もの社会福祉士がいるのですが、80%が高齢者施設・障害者施設・児童養護施設および医療機関で働いています。一般大衆の目には届かない場所で生息しています。
また15%は、行政機関や社会福祉協議会や学校に勤務しています。残りの5%は民間企業に籍を置いているペーパードライバーになります。

もうここまでで100%になってしまいました。でも、全体の1%にも満たない500人の社会福祉士が開業して全国に事務所を構えているのです。社会福祉士の中では希少派です。法律家や医師とちがって、稼いだり儲けたりすることには無頓着なのです(笑)。

さいごに

100年もの長き人生を生きる代償として背負わされた老親介護問題は、誰の身にも起こるリスクです。このリスクだけは、ある日突然、そして必ずやってくるのです。従業員と家族を本気でまもろうという企業は、介護休業制度だけでは片手落ちと知るべきです。親に何かがあったとしても職場を離れなくて済む労務インフラを整備すべき時代です。

そうすることで、従業員満足度も企業イメージも上がるでしょうし、株価だって上がるかもしれません。採用時のアドバンテージにもなり得ます。働き方改革やらSDGsやらダイバーシティやらサステナビリティやらの視点からも、先見の妙がある経営者であれば、どこよりも早く社会福祉士とのパートナーシップを結ぶべきです。これ以外に、介護離職ゼロを実現する手立てはありません。少なくとも私には、思い浮かびません。

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